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シャルル・ボネ・シンドローム

 加齢黄斑変性症のため視力が低下し文字の読み書きが困難、と80代の女性が相談に来られた。中心外固視の練習やルーペの選定、拡大読書器の取り扱い説明などひとと おり行って、たいへん喜んでくださったその後で、「ところで、、、時々、見えているはずのないものが見えるようなことは、、、」と切り出してみた。「そう、そうなん です!洋服の布目が見えたり、近頃は虫がぞろぞろ出てきて私の目の前を歩いてゆくのです!」と身を乗り出してこられた。隣に座っていた娘さんがちらっと横目で彼女 を見てため息をついた。
シャルル・ボネ・シンドローム。四肢を失った人がなくなったはずの手足の痛みに悩まされるという「幻肢」同様、失った視覚情報を埋めようと脳が造り出した像が見える 「幻視(幻覚ともある)」の症状で、ロービジョン者の10%から40%がそのことを認めているというデーターさえある。ある80代の男性は「家内に言うといよいよ頭が おかしくなったと心配すると思い、ずっと胸のうちにしまっていましたが、心配無用なのですか。いやー、今日は来てよかった。」とにこにこして帰って行かれた。たい ていの方はご自分からは語らない。ご相談の後半、リラックスムードが漂う中でお聞きしてみると、教えてくださる。見えるものもこどもの行列やぬいぐるみ、紫色の烏 帽子をかぶった人や木の切り株、川のせせらぎなど様々で、決して怖くはなく、実在しないものと本人も自覚していることが特徴だ。それを楽しんでいる人さえいた。そ して、お話しくださった方にそんなシンドロームの存在についてお伝えすると、とても安心されて笑顔になる。ひとりで戸惑い、悩んでおられた日々を思うととても辛 い。最近は必ず、ロービジョン相談のメニューの最後に「ところで、、」というのを加えるようにしていて、回答率は黄斑変性症の方をとってみれば20〜30%というと ころだろうか。
それにしても脳の中の視覚はとても不思議なものだと思う。
(シャルル・ボネ・シンドロームのことはV.S.ラマチャンドラン「脳の中の幽霊(角川書店)」や「豊かに老いる眼(文光堂)」LYLAS G.MOGK田野保雄先生監訳に詳しく書かれています。)
by 渡邊 (06/07/05)

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